朝日新聞に、東京宝塚劇場(東京・日比谷)で公演中の宝塚歌劇の水夏希さんのサヨナラ公演のレポートが掲載されていました。
公演の内容は7月に私が宝塚大劇場で見たミュージカルとショーの2本だて。水さんのスーツ姿が似合っていました。男性の私から見てそう思います。

「ぜひ観にいってくれ」といっても公演は今週日曜日(12日)までだからチケットは、もう余ってないでしょうが。

リンク:
さりげなさの美学 水夏希、新たな道へ 宝塚「ロジェ」@朝日新聞
宝塚歌劇のホームページ

以下、朝日新聞より。
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現在、日比谷の東京宝塚劇場で上演中の雪組公演「ロジェ」は、少年時代にナチスの関係者(と思われる人物)に家族を皆殺しにされた男の復讐劇だ(12日まで)。
 どちらかというと薄暗い舞台のなか、物語はスーツをびしっと着こなした男たちによって、淡々と進行する。「あれっ? ここは本当に『ベルばら』のタカラヅカ?」初めて観た人は不思議に思うかもしれないが、間違いなくタカラヅカなのでご安心を。
 考えてみればつい1カ月前はこの同じ舞台で、イギリスの海軍提督と美人妻の大恋愛が展開し(宙組「トラファルガー」)、さらに1カ月前には本格派ミュージカルで歌いまくり(月組「スカーレット・ピンパーネル」)、さらにその1カ月前には中国の英雄たちによる大立ち回りが行われていたのだ(花組「虞美人」)。
 「バレエも日本舞踊も踊れるのがタカラヅカスターのすごいところ」と言ってきたけれど、やはり芸風の幅はタダモノではない。客席で思わず赤面しちゃうようなクサいせりふも、さりげないけど奥が深いリアリティ勝負のせりふも、どちらもカッコよく決められることが、タカラヅカスターの条件なのだ。そして、本作で求められるのは、後者のカッコ良さである。
 水夏希演じる主人公のロジェは復讐だけを目標に生きているインターポール(国際刑事警察機構)の刑事。だからといって、暗く、怖ろしい雰囲気ではない。むしろ、少年時代のあの惨劇さえなければ、天真爛漫なお坊ちゃんに育ったに違いないとさえ思える。品の良さの影に見え隠れする心の傷、そのバランスが絶妙だ。
 シンプルなスーツの着こなしにこそ、男役のキャリアの差が如実に出てしまうもの。今回、目を引いたのは、シャツのみにジャケットという、とりわけシンプルな組み合わせだ。あんな風にさりげなくカッコよく着こなせる男性が日本中に何人いるだろうか? たいていの場合、「ちょっとぉ、ネクタイ締め忘れてるんじゃないの?」などと注意されるのがオチではないだろうか。
 物語の舞台はパリからブエノスアイレスに移り、ロジェの復讐のターゲットであるシュミット(緒月遠麻)の思いがけない正体が次第に明らかになる。ついにシュミットと向き合い、銃口を向けるロジェ……だが、引き金を引くことはできない。人間という存在の愚かさと気高さ、それゆえの、「許す」ことの難しさと尊さを同時に突きつける緊迫のラストシーンだ。
 直接的には、シュミットという人物の予想外な素顔がロジェに復讐を断念させたようにみえる。だが、じつはロジェに関わるさまざまな人との交流が、復讐一筋に生きてきたロジェの心の傷を少しずつ癒し、結果としてロジェに引き金を引かせなかったのでは、という風にもみえる。
 なかでも、重要な役割を果たすのが、レア(愛原実花)の「さりげない女心」と、リオン(音月桂)の「さりげない友情」だろう。ユダヤ人のレアはナチスの戦犯を追うヴィーゼンタール機関の調査員であり、ロジェとレアとの関係は、表面上は同じ目標を追いかける同志に過ぎない。トップコンビの間に色恋ナシ、しかも愛原も水とともに今回で退団だから、これではあまりに寂しすぎるのでは? とも思える。
 だが、互いに心を堅い殻で閉ざしたような2人が、最後の場面で初めて手を取り合い、タンゴを踊る。これから2人の間に何かが始まるかもしれないし、これっきりかもしれない……本作品に限っては、その感じがいいのだろう。
 パリ市警のリオンとロジェも、最初から男の友情で結ばれているわけではない。捜査で互いに協力し合い、ときに反発し合うなかで、少しずつ、本当に少しずつ育まれていく信頼関係。むしろ、そこが見せ場だ。
 復讐は果たされなかった。思ったようにゴールできなかった。しかし、だからこそ新しいスタートが切れる。吹っ切れた笑顔で、ひとり銀橋を歩いていくロジェの姿は、トップスターとして完全燃焼して、今、新たな道を歩き出そうとしている水夏希にかぶってみえる。
 「泣ける悲劇」や「めくるめく大恋愛」じゃないタカラヅカだってあるのだ。「さりげない、カッコ良さ」をかみ締めるのが、この作品の正しい味わい方といえるだろう。
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